海上コンテナと経済学

前回の記事にて、海上コンテナ取扱量の企業別ランキングを取り上げました。その中で、ランキングを見ると欧米がトップを独占しており、これら上位の企業はM&Aにより企業規模を拡大してきたと説明いたしました。

ここで少し目線を変えてみましょう。というのも、なぜそもそも企業規模を拡大するのでしょうか。「企業規模の拡大」と一言でいうと何となく企業としての競争力が強くなったような感覚に陥ってしまいますがそれは本当でしょうか。

実は、この「企業規模の拡大」=「企業の競争力の向上」という方程式が成り立つのは特定の条件下に置かれている企業であるということができます。少し言い換えるならば、ありとあらゆる企業に当てはまるわけではなく、特定の企業にしか当てはまらない方程式ということです。

経済学に詳しい方であればご存知かもしれませんが、この「企業規模の拡大」=「企業の競争力の向上」という方程式が成立することを「規模の経済が働く」と言います。
「規模の経済が働く」とはすなわち、「ある製品・サービスの生産の規模が拡大することによって単位あたりの費用が減少する」ということと説明されるのですが、誤解を恐れずに要約すると「企業体が大きくなれば固定費用が安くなる」ということを意味しています。

ここで本題のコンテナ船運航企業を事例に考えましょう。企業にとっての固定費用として大きいのはそもそもの「船舶」にかかる費用(購入・リース含む)でしょう。企業規模が大きくなればなるほど運航する船舶の数が増えるでしょうから、価格面での交渉力が強くなり、その取得にかかる費用も当然低減することが想定されます。簡単に言ってしまうと一隻あたりの取得金額が安くなる、ということです。

このため、コンテナ船運航企業に限っていえば、企業規模を拡大すればするほど利益率が向上する傾向にあります。そして、実は日本の企業も最近になって同様の観点から事業を統合する流れが起きています。昨年、日本の三大物流企業である日本郵船、商船三井、川崎汽船はコンテナ船事業を統合し、新会社を設立したのは記憶に新しいですが、このように「規模の経済が働く」ことを意図して、世界的な競争力を築き上げるために統合されたと言えるでしょう。

社会の流れを「経済学」という観点で切り取ると世の中の仕組みが少しだけクリアになります。そして、企業の動きの裏側にある原理原則といったものに気づくと少なからず未来予測ができるような気がするのもあながち間違いではないかもしれません。