今年に入り、アメリカでトランプ政権が発足したことは多くの方がご存知だとと思います。遠く太平洋を挟んだ国のことなので、私たち日本人の実生活にはあまり影響がないと思っておられる方や、そのリーダーシップの強さから政治家というよりはエンターテイナーのような見方でトランプ大統領を見ておられるような方も多いのではないでしょうか。
今回は、海上コンテナ市場という観点から、トランプ大統領の施策を考え、私たち日本人の生活にどのような影響をもたらしそうか考察してみたいと思います。
トランプ大統領は元来、保護貿易主義を唱えている政治家であり、1期目のTPP離脱などはまさに彼ならではの方針転換であったと言えるでしょう。
※TPPについては過去のコラムで取り上げていますので、より深く理解したいという方は下記のコラムもご参照ください。
・日本と外国の協定について
そして、2期目の今回も関税施策を目玉とし、来月以降米国内に入ってくる品目についてその関税を引き上げようとしています。
まずはカナダとメキシコというアメリカの隣国をターゲットとしていますが、日本からの輸入品目についても引き上げることが予想されています。この施策が実現するとどうなるか、ということですが、当然日本からアメリカへのコンテナ輸送量が減少することが想定されます。
具体的にご説明しましょう。
昨年2024年通期の日本発米国向けのコンテナ数は643,433TEUでした。(TEUはTwenty-foot Equivalent Unitsの略。20フィートで換算したコンテナ個数を表す単位のこと)
この643,433TEUの中身を見ると、主に機械類、車両類、ゴム類など日本の基幹産業である自動車産業などの産業系でおよそ72パーセントの大部分が占められています。
そしてこの傾向は2024年度だけではなく、直近数年間のトレンドとして把握できるわけですが、いずれの年も日本からアメリカへの輸出量が多く、日本の輸出産業にとっては非常に良いビジネス環境であったと言えます。
ところがトランプ大統領は今後、日本からアメリカに輸出される自動車部品などにも高い関税をかけようとしています。
するとどのようなことが想定されるでしょうか。
まず第一に、日本の自動車産業には比較的大きなマイナスのインパクトをもたらすと思われます。今までアメリカ向けに輸出できていた自動車や自動車部品が行き場を失い、生産量を減少させる必要が出てくるでしょう。生産量減少は工場労働者の解雇につながりますが、それだけではなく、アメリカ向け輸出の72パーセントと大部分を占める産業が影響を受けると、日本全体の景気が下落局面に陥ることも十分想定されます。
現在、様々な物価が上昇し、インフレ傾向にありますが、インフレと景気の停滞が同時に押し寄せることをスタグフレーションと呼びます。日本においては1970年代のオイルショック後にこのような事態に陥ることとなりましたが、非常に厳しい経済環境であったといえます。より分かりやすい表現を使うと、物価が上がるだけでなく、給料が下がるという現象が同時に起きてしまうという状況になってしまうということですが、スタグフレーションは経済学者の間では最も避けなくてはいけない事態の一つとして認識されています。
このように、アメリカという大国の動向がその経済力の大きさと、日本に対する影響力の大きさゆえに、私たちの生活に実に密接していると言えるのです。
そして、アメリカが直接民主主義の国であるがゆえに、トランプ大統領の一挙手一頭足が私たち日本人の実生活に直接影響を及ぼしうる、という現象についても理解が必要であろうと思います。